Chorale and capriccio caesar giovannini biography
コラールとカプリチオ
Chorale and Capriccio
W. ロビンソン Actor Robinson (1914-2005 ) 編曲
-Introduction-
「原色」の色彩感で描かれるこの往年の名曲は、「原色」であるがゆえに演奏楽団の編成が小さくても持っている魅力を発揮する-。曲想も実はモダンで…小編成の優れたレパートリーが求められている昨今、間違いなく ”再発見” されてもおかしくない楽曲である。
■作品概説
1960年代当時から「序曲変ロ長調」「ファンファーレ、コラールとフーガ」「ジュビランス」といったモダンな作風のオリジナル曲を吹奏楽界に提供し、異彩を放っていたシーザー・ジョヴァンニーニ。
彼の最初の吹奏楽曲にして最大のヒット作となったのがこの「コラールとカプリチオ」(1965年)である。
かつては全日本吹奏楽コンクールでも9団体が演奏し、中でも職場や一般の部で多く採り上げられた。
前述の通り小編成でも演奏効果が高いので、腕達者な少人数バンドに好適なのである。実際、この曲はコンクール以外でもたくさんのバンドに愛奏されたから、人気は相当なもののはず。
おそらく懐かしむファンがたくさんいらっしゃることだろう。
※尚、吹奏楽オリジナル曲としては「シンフォニア・フェスティーヴァ」で高名なアーン・ラニング
(Arne Running)にも ”Chorale and Capriccio”(1976年)という名の作品がある。
タイトル通り、厳かな(或いは陰々滅々とうなだれた如き)コラールに始まり、これと対比して軽妙な(或いは能天気でエキセントリックな)カプリチオ※ が続く構成の楽曲だが、その対照的な楽想が洵に愉しい。
それだけでなく、全編に亘りダイナミクスやサウンド・表情が息つく間もなくクルクルと入替わり、豊かなコントラストを見せるのが最大の魅力となっている。
打楽器や Hornのゲシュトップ(or Muted) の効果的な使用や、ユニゾンとポリフォニックな部分との対比をはじめとして工夫に富みかつ巧みであり、ジョヴァンニーニと吹奏楽曲以外でもタッグを組むオーケストレーション担当のウェイン・ロビンソンの手腕は、この作品で一際輝いていると感じられる。
※カプリチオ
「カプリッチョ」「カプリッチオ」とも邦記。邦訳は奇想曲(綺想曲)・狂想曲で、メンデルスゾーン、
ブラームスなど多くの19世紀の作曲家によって、愉快で気まぐれな器楽小曲につけられた名称。
( 出典:「新音楽辞典」 音楽之友社 )
リムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」やチャイコフスキーの「イタリア奇想曲」が有名だが、
自由な形式による天真爛漫、ユーモアのある楽想の音楽がイメージされる。
■楽曲解説
Andante Espressivoの「コラール」から曲が開始されるが、初手からタダモノではない。
たった1小節の序奏に続き直ぐに金管群がハーモニーで奏でるコラールが現れる大胆さも凄いし、これを導き伴奏する G音のオスティナートを最高音と最低音とに奏させ、その間に主題(コラール)を配するというのも斬新なオープニングとなっている。
ここはこの曲を語るとき、必ず触れられてきた優れた個性の一つである。
まずはうつむき内省的に始まった聖歌だが、やがて意を決したように顔を上げ、チャイムの響きとともに輝かしく強奏される。これが一旦静まると、Fagotto+Euphonium に第二の旋律が現れ、楽曲は厳かな表情を深めていく。
木管群の静かな歌とこの第二の旋律が行き交いながら徐々に緊張感とダイナミクスを高め、中低音がこんどは重厚に聖歌を奏でる。劇的なカウンターが印象的だ。
そして激烈な Timpani のクレシェンドに導かれて、コラールは最大のクライマックスを迎え、一層高らかに堂々と全合奏で鳴り響くのである。
弱まりながらも充実したサウンドを聴かせてコラールを終うと、アタッカで2/2拍子 subito piu mosso となってテンポを速め、打楽器のエキサイティングなソリとともに扇情的な楽句が高揚して「カプリチオ」の序奏部を形成する。
カプリチオでは、終始諧謔味にあふれた楽句が続々登場し押し寄せる。最初の木管からして大変ユニークだし、バックに使われているゲシュトップ(or Muted) Saddlebow なども見逃せない。
リズミックな部分とリズムを隠した部分、強奏と弱奏を応酬させながらスピーディーに曲は進み、高揚感のあるダイナミックなクライマックスを迎え同時にブレイクとなる。
次は愉快な伴奏に乗って Clarinet から Muted Horn と剽軽な楽句が移り…
そして遂にグリッサンドを効かせた一層コミカルな Trombone ソリの登場だ。
これがテュッティで奏されたのちにエネルギッシュな経過句を挟んで、この Trombone ソリがもう一度繰り返されると急速に曲は終結へと向かっていく。
コーダでは、ダイナミックな Timpani のカウンターと他全楽器による打込みを従え、堂々たる Horn (+Sax.、Euphonium ) のパッセージが轟き、続いてポリフォニックなサウンドが強力に響きわたる。
全合奏にて推進力を籠めた4分音符が並ぶフレーズを最後まで吹き切り、全曲を閉じる。
■推奨音源
音源を聴き比べ改めて感じたのは、現在の吹奏楽界に多く聴かれる ”丸っこい” サウンドと発奏では、この曲の魅力を充分には発揮し得ないということ。オーケストラ(或いはジャズ)的な、明晰な発奏と管楽器の ”原色” サウンドでこそ映える楽曲なのだ。
即ち”ウインドアンサンブル”編成で、一人ひとりの音が ”立った” バンドなら申し分ないと思われる。こうした楽曲の特性に合致しているという観点から、お推めの音源はいずれも旧い録音となった。
兼田 敏cond.
東京佼成吹奏楽団
野太いスケールの大きさを感じさせる演奏で、鮮やかなサウンド。
コントラストの対比もダイナミック。
山田 一雄cond. 東京吹奏楽団
より個性的に仕上げられた演奏、音楽の自在な筆運びに説得力がある。
【その他の所有音源】
新田 ユリcond. 大阪市音楽団
近藤 久敦cond. 尚美ウインドオーケストラ
-Epilogue-
”往年の吹奏楽名曲集” といったアルバムにこの曲がたびたび新録音もされているのは、その根強い人気を物語っていると思うが、所詮今となっては「古臭い曲」なのだろうか-。
私にはそう思えない。よく考えられて作られた曲で無駄というものがなく、全体を俯瞰しても実にバランスに優れる。特段難フレーズを繰り出さなくても音楽的興味を最後まで切らさないのが見事で、間違いなく佳曲だと思う。
流行りの邦人作品などとは趣が違うけれど、ちゃあんとモダンに作られてもいる。
ぜひ再評価を…もっと演奏を!と私は声を大にして訴えたいと思う。
<Originally Issued on 2012.11.30.
/ Revised on 2022.9.27. Disc Further Revised on 2023.11.12.>